産業機器などのアフターサービス部門は、企業活動において重要な役割を担う一方で、ほとんどの場合、収益を直接生み出さないため、俗に言う「コストセンター」と見なされることが少なくない。しかし、見方を変えれば、顧客と直接かかわる修理現場は、潜在ニーズや不満を把握できる貴重な機会であり、近年ではアフターサービス部門を新たな売り上げを生み出す「プロフィットセンター」として再定義しようとする動きが出てきている。このような取り組みにはたして可能性はあるのだろうか。
この問いに対し、ドイツPHOENIX GroupのManuel Berkmann、ブレーメン大学マーケティング部門の教授Maik Eisenbeissらは『B2Bフィールドサービス技術者を「第2の営業部隊」として活用する: サービス状況が販売活動と成功に及ぼす影響1』という論文で、アフターサービスを担当するサービスエンジニアが販売活動を成功させる条件を具体的に報告している。
アフターサービス部門が生む信頼とビジネスチャンス
大規模な設備や機械、原材料などを扱う産業分野では、アフターサービスとして機器の修理・メンテナンスを実施する部門を設置している企業が多数存在する。定期メンテナンスや予防保全サービスを提供することで、顧客の生産ラインや設備の継続稼働を支える役割を担っているのだが、これらの業務は高度な技術的知識を必要とし、担当のサービスエンジニアは問題解決者として、企業が顧客と信頼関係を築く上での重要な役割を果たしてもいる。経営者としては、こうした背景の中で、追加部品やサービスの提案を通じたアップセルやクロスセルを期待してしまうのも無理はない。
では、どういうときにサービスエンジニアによる販売が成り立つのか。Manuel Berkmannら研究チームの調査は、エンジニアの販売効果を左右する主な要因として、「サービスタスクの成否」「保証期間内外」といった「サービス状況」を挙げている。研究チームは、ドイツの工作機械メーカーであるDMG森精機の主要市場に対する4年間(2012年〜2015年)のサービスエンジニアの顧客訪問のデータベースを分析した。そして、サービスエンジニアが顧客訪問中に行った販売活動と、実際に販売に至った成功率を、以下の4つのサービス状況ごとに検証した(「保証期間」は、製品の修理対応などがサービス保証されている期間。「サービス成功/失敗」は、顧客の求めに応じて修理などの対応にのぞんだ結果、それが「達成されたか(=成功)/達成されなかったか(=失敗)」を意味している)。
①保証期間外のサービス失敗
②保証期間外のサービス成功
③保証期間内のサービス失敗
④保証期間内のサービス成功
その結果わかったのは、最も販売成功率が高いのは、「保証期間外のサービス失敗」時、つまりは「保証期間外に顧客の要望で訪れたものの、うまく修理できなかった」など「サービスが失敗に終わった」際だということだった。同時に、この状況下では、サービスエンジニアの販売活動率は低いということもわかった(図1)。これは、フィールドサービスエンジニアが、実際には販売のチャンスがあるにもかかわらず、それを十分に活用できていない可能性があることを示唆している。

具体的に言えば、「製品に不具合が発生したものの、保証期間外である上に、修理も不可能」というような状況では、顧客が代替品を検討しやすく、新たな提案を受け入れやすいというようなことだ。このタイミングでエンジニアが適切な製品情報やアップグレードなどの提案を行えば、顧客が購買に踏み切る可能性は高い。サービスエンジニアが、修理現場で単に技術的なサービスを提供するのではなく、状況を踏まえて、顧客のニーズに応じた提案を行うことができれば、販売は大いに成り立つ可能性があるのだ。
「修理不能」なときにモノが売れる
Berkmannらの研究は、「保証期間外のサービス失敗」時に販売成功率が高まるメカニズムについて、期待理論(Expectancy Theory)を用いて説明している。期待理論は、個人が特定の行動を取る動機のメカニズムを説明する心理学的理論だ。特定の行動によって期待する結果が得られることがわかると、その行動に対するモチベーションが向上するとされている。
研究チームによると、顧客が販売提案に前向きに反応する「保証期間外のサービス失敗」時には、以下の2つの特徴があるという。
高いコスト意識:顧客にとって機器の正常稼働は最優先事項であり、ダウンタイム(復旧までの時間)によるコストを避けたいという強い動機がある。このため、顧客は故障を迅速に解決することを重視し、その成果に高い価値を見出す。
責任帰属の違い:保証期間外では、顧客は故障の責任をメーカーではなく自身に帰属させ、自ら解決策を探す傾向がある。これにより、自分自身で結果を達成できるという認識が顧客の中で高まり、予防的な販売提案を受け入れやすい心理状態になる。
このように、「保証期間外のサービス失敗」の状況は、顧客が販売提案に積極的に応じる契機となりうるのである。
一方で、調査結果によると、サービスエンジニアが販売活動に取り組む意欲が最も低いのは「保証期間内のサービス失敗」時であった(図1)。この際、サービスエンジニアの心理には、以下のような動きが生じると考えられる。
- 主業務の失敗がもたらす影響:主なサービス業務を遂行できなかった場合、サービスエンジニアは自己に対して不満を覚えたり、顧客から技術能力への信頼を喪失したりといった否定的な影響を心理的に受けることになる。その結果、サービスエンジニアは販売活動の成功の見込みを低く見積もりやすくなる。
- 保証期間内の責任帰属:保証期間内の修理では、問題の責任と解決の義務がサービス提供者側にあるため、顧客は提供者に対して、より高い期待や責任を追及する。この状況は、提供者の代表としてのサービスエンジニアにさらなるプレッシャーを与え、販売提案を行おうとする心理的なハードルは一層高くなる。
こうした心理的な作用の影響で、「保証期間内のサービス失敗」時には、サービスエンジニアの販売活動成功への期待値は低くなり、モチベーションも低下する傾向があるという。
エンジニアを「ビジネスを牽引する人材」へ育てるために必要なこと
心理学的な分析はさておくとしても、サービスエンジニアが販売活動に積極的になりづらい気持ちは素人にも想像がつくだろう。彼らに“その気”になってもらい、成果をあげてもらうには、彼ら任せにするのではなく、やはり周囲からのサポートが必要だ。この点について論文は、サービスエンジニアを「ビジネスを牽引する人材」へと育成するために、経営者、サービス設計者、マーケターが取り組むべきこととして以下の事柄をあげている。
- サービスエンジニアのコミュニケーション能力向上を支援する
単に修理を行うだけでなく、顧客の悩みや要望に丁寧に耳を傾け、的確なアドバイスや提案を行って顧客からの信頼を獲得できるようなコミュニケーション能力の習得・向上を促す。 - サービスエンジニアの提案力を向上させる
製品知識だけでなく、顧客の業界や競合情報をも把握し、顧客の課題解決につながる提案を具体的に行う能力を養う。 - 営業部門との連携を強化し、顧客管理システムへの情報入力を徹底させる
顧客データを適切に管理することで、顧客ニーズの把握、迅速な対応、そして効率的な提案活動が可能となる。こうした情報管理を徹底することにより、顧客満足度の向上と販売機会の最大化を図る。 - 販売実績を評価し、適切なインセンティブ制度を導入する
販売実績を正当に評価し、インセンティブを与えることにより、サービスエンジニアの貢献意欲向上をはかる。ひいてはそれは、組織全体の業績向上にもつながる。
経営者、サービス設計者、マーケターは、これらの取り組みを通じて、エンジニアが販売活動に積極的に関わることができる環境を整備する必要がある。そしてその結果、サービスエンジニアが新たな価値と収益源となることができたとしたら、これまでコストセンターとされてきた修理・メンテナンス部門は、事業成長を牽引する存在になりうるのである。
参考文献
- Berkmann, M., Eisenbeiss, M., Reinartz, W. et al. Leveraging B2B field service technicians as a “second sales force”: How service situations affect selling activity and success. J. of the Acad. Mark. Sci. 52, 736–761 (2024). https://doi.org/10.1007/s11747-023-00964-0
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