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マーケティング論文紹介

SDGsでモノは売れるのか?

SDGsが世界にとって不可欠な取り組みなのは間違いない。しかし、SDGsのおかげでモノが売れるということはあるのだろうか──この問いを読み解くヒントとなる論文がある。合肥工業大学 経営大学院の教授Luoらが2022年に発表した『消費者の知覚価値が省エネルギー製品の購買意欲に与える影響の理解1』がそれだ。タイトルからもわかるように、SDGsが掲げる課題全般を研究対象としたものではないが、いわゆるエコ商品と購買意欲の関係性について調査をもとに論じており、社会性が購買にもたらす影響について示唆を与えてくれる。

どのような要因が生活者の購買意欲を上げるのか

生活者の購買意欲に繋がる価値観をひも解く「知覚価値」の研究が盛んだ。知覚価値とは、生活者が製品やサービスに対して感じる価値のことだ。これは、支払う費用(お金や時間など)と、その商品から得られるメリットを比較して感じられる印象であり、必ずしも商品の実際の価値とは必ずしも一致しない。言い換えれば、顧客が主観的に感じている価値観のことだ。
Luoらの研究では、知覚価値を5つの価値観に分類した。

  • 機能的価値:商品の実用性や性能に関連する価値
  • 感情的価値:使用時に得られる満足感や喜び
  • 社会的価値:周囲からの評価や社会的な認知
  • 条件付き価値:割引や特典による一時的なメリット
  • 環境的価値:サステナビリティやエコ意識に関連する価値

これらの知覚価値は、生活者の判断や満足度、そして購買意欲を形成する。既存の研究からも、生活者の満足度が高まるほど購買意欲が増加することが報告されている。Luoらは知覚価値と満足度の関係、さらに購買意欲への影響を詳しく調査するため、アンケート調査を実施した。

満足度と購買意欲に影響を与える知覚価値の調査

Luoらの調査は、エコ商品を購入した経験(彼らは「グリーン経験」と呼んでいる)に注目して、オンラインとオフラインで実施された。オンライン調査はアンケートサイトを通じて行い、オフラインはショッピングモールの入り口で配布する形で行われた。約1ヶ月間で455人にアンケートを依頼し、そのうち399人から有効な回答を得た。アンケート回答者は以下のグループに分類された。

  • グリーン経験(少なくとも1つのエコ商品を購入した経験) :経験なしとあり
  • 性別:男性と女性
  • 所得 :低所得(月収727ドル未満)と高所得(727ドル以上)

調査結果から抜粋して、以下の2つの表を示す。

表1. 生活者属性ごとの満足度が購買意欲を高める影響度
表1. 生活者属性ごとの満足度が購買意欲を高める影響度
*の数が多いほど相対的に影響が強いことを示す
※参考文献1. Table7. マルチグループ構造方程式モデルの分析結果を参考に改変

表2. 生活者属性ごとの知覚価値が満足度を高める影響度
*の数が多いほど相対的に影響が強いことを示す
※参考文献1. Table7. マルチグループ構造方程式モデルの分析結果を参考に改変

表1の結果から、全てのグループで、製品に対する満足度が高まることで購買意欲が大きく向上することが、Luoらの調査でも確認された。表2の結果は、縦軸・横軸の関係のなかで いくつかの解釈が成り立つ。横軸の価値ごとでみると、エコ商品から想起される「社会的価値」「環境価値」を感じている生活者は限定的だ。一方で縦の回答者グループでみると、「グリーン経験あり」「低所得層」はさまざまな価値を感じて、エコ商品に満足していることがわかる。

Luoらはこの結果を以下のように考察している。エコ商品を購入した生活者(グリーン経験あり)は、過去の購入経験からその価値をさらに確信し、より高い満足度を得やすくなる。逆に、エコ商品を購入したことのない生活者は、品質への不安や疑念を抱くため、満足度は低くなる。また、低所得層の生活者は価格に敏感であり、より多くの商品を調べることで購入リスク(期待通りの価値が得られないリスク)を減らしている。商品についてよく調べることで、商品の価値を認識しやすくなり、満足度も高まるのだ。
さらに、Luoらはターゲットマーケティングの重要性を強調している。今日、生活者グループは多様化しているため、エコ商品の市場を細分化し、各セグメントに適したマーケティング戦略を立案することが重要だ、とする。例えば、「グリーン経験」がない潜在的な生活者に対して、それぞれに見合ったかたちでエコ商品を体験する機会を増やすことで購買をうながす、といった取り組みである。

SDGs時代にモノを売るために

注目したいのは、 エコ商品への満足度が高い「グリーン経験あり」「低所得層」のグループが、共通して商品についてよく知っている、もしくはよく調べているであろうことである。知ることが、商品に対するネガティブな印象や不安を軽減するだけでなく、満足度を高める重要な要因となっているのだ。地球環境への配慮をはじめ、SDGsが掲げる数々の課題に対して、まだまだ身近に感じてはいない生活者も少なくないが、知ることでその価値が認識され、結果的に購買意欲につながることが示唆されている。
このことから、多様化した生活者に向けた、知覚価値を意識したさまざまな情報提供が、マーケティング戦略の重要な柱のひとつとなる可能性が見えてくる。ただ商品の性能や価格を伝えるだけでなく、生活者目線に立ち、そこにある価値をきちんとかみ砕いて発信することが求められる。SDGsのムーブメントのなかでマーケティングの鍵を握るのは、知覚価値をもたらす情報発信なのである。

参考文献

  1. Luo B, Li L and Sun Y (2022) Understanding the Influence of Consumers’ Perceived Value on Energy-Saving Products Purchase Intention. Front. Psychol. 12:640376. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2021.640376
    クリエイティブコモンズ CC BY 4.0のもとライセンスされている参考文献を改変しています。 ↩︎

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