脳内開国せよ、マーケティングの新時代へ。
マーケティング論文紹介

クリック率が下がらない“同意の呼びかけ”とは──行動科学的に正しいオプトイン(明示的同意)設計

プライバシー保護の規制が強化され、いまやさまざまなシーンで、あらかじめ生活者の能動的な同意を得る「オプトイン(明示的同意)」が求められる時代になった。ECサイトでの購買時に「ショップからのお知らせを受け取る」というチェックボックスを意識したことのある人は少なくないはずだ。

しかし、襟を正して「あらためて同意を迫れ」ば、コンバージョン率が低下するのは間違いない。とはいえ、「(生活者が断った時点で)個人情報の使用をやめる」というオプトアウト(推定同意)方式をとれば、倫理的懸念もあるし、ブランドへの不信感を招くリスクもある。

オプトイン(明示的同意)を崩さず、コンバージョン率を高める方法はないのだろうか──。

この課題に対して解決の可能性を示しているのが、オランダのロッテルダム・スクール・オブ・マネジメントの助教Cadarioらによる行動科学研究だ。2025年に発表した論文『オプトアウトを超えて:推定同意表現が説得力を形作る1』の中で彼らは、「言葉の表現を工夫する」だけでクリック率を約1.6倍に引き上げられることを実証している。

オプトイン時代のマーケターが抱える「誠実さと成果」のジレンマ

「オプトイン(明示的同意)」は、迷惑メール対策法や欧州のGDPR(一般データ保護規則)などの規制もあり、現代のマーケティングにおいては不可避なプロセスとされている。フォーム送信、資料請求、アプリ登録……。さまざまな局面で、生活者を尊重して、生活者に誠実であればあるほど、コンバージョンは下がり、成果が遠のいてしまう。企業は誠実さと成果のジレンマに頭を悩ませることになる。Cadarioらは、このジレンマを解消する手がかりが「言葉の表現」にあると指摘している。彼らは「推定同意」を「仕組み」と「言葉の表現」に分けて考えている。そして、ジレンマ解消の鍵を握るのは、推定同意の「仕組み」ではなく、推定同意的な「言葉の表現」をとることにあるとする。

「仕組みとしての推定同意」は、あらかじめサービス適用や同意がデフォルト設定されており、生活者がそれを拒否しない限り、「同意した」と見なす方式のことだ 。オプトアウト方式ともいわれ、高い効果を発揮するが、倫理的正当性を担保しづらいだけでなく、押し付け感やノーショー(無断キャンセル)の増加といった弊害も指摘されている 。

これに対して、「表現の上での推定同意(推定同意表現)」は、仕組み自体は本人がチェックを入れるまで何も始まらない「オプトイン」の方式をとりつつ、生活者に働きかける言葉だけを「同意することを前提とした表現」にする。具体的には、よくあるような「承諾するか、しないか」「受け入れるか、受け入れないか」などと可否について決断を迫る働きかけをするかわりに、「(生活者のために)すでに準備が整っている」などと、その先に「生活者にとっての好ましい状況」が用意されていることを伝える 。

Cadarioらは、この2つの違いを明確にした上で、皮膚がん検出アプリ「SkinScreener」のダウンロードを促すという実験をおこなった。英国で601名を対象に、オプトインの仕組みは変えずに、ポップアップメッセージの言葉のみを「推定同意表現」に置き換えて効果を測定した。
その際、用いた表現は次の通りである。

  • 明示的同意表現(Explicit-consent language):
    • メッセージ:「もしご希望であれば、皮膚検査を受けることができます。」※従来のオプトインで標準的に用いられてきた表現
  • 推定同意表現(Presumed-consent language):
    • メッセージ:「あなたの皮膚検査の準備が整いました」

結果は、明示的同意表現のクリック率が26.4%で、推定同意表現のそれは42.4%だった。「すでに準備されている」というお膳立てを伝えるだけで、もっといえば言葉の表現を変えるだけで、クリック率が約1.6倍にまで向上したのである(図1)。

図1 クリック率における推定同意表現の効果
灰色:明示的同意表現(Explicit-consent language)「皮膚検査を受けることができます。」
青色:推定同意表現(Presumed-consent language)「あなたの皮膚検査の準備が整いました。」

なぜ「ご用意しました」は行動を促すのか

Cadarioらは、この効果を、単なる表現上のテクニックとして片づけていない。複数の媒介分析を通じ、効果の背景には、対象の性質に応じた2つの心理メカニズムがあると特定している。

そのひとつは、権威に対する信頼である。例えばワクチン接種や検診などのように専門性が求められる領域では、推定同意表現は「専門家や専門機関が勧めている行動である」という 「知覚された推奨(perceived endorsement)」を強く喚起する 。その結果、生活者は、専門という権威が自分のために準備したという事実に信頼を感じ、推奨されたコースを選択しやすくなる 。

もうひとつは、心理的な所有感である。化粧品や日焼け止め、温度計のような有形製品では、効果の源泉が変わる 。そこに対して推定同意表現は 「心理的所有感(psychological ownership)」を生み出し、「すでに自分のものになったものを手放したくない」という損失回避の心理を刺激する 。

「誠実さと成果」の両立は可能

Cadarioらの研究は、オプトイン時代のマーケターが抱える「誠実さと成果」のジレンマに対し、ひとつの解決策の方向性、もしくは理想の戦略姿勢のあり方を示している。社会の要請ともいえるプライバシーや個人の権利への配慮の必要性に対して、仕組みとしての同意プロセス(オプトイン)を維持することで誠実に対応しつつ、言葉の設計によってコンバージョン率を高め、しっかりと成果を求めていく。生活者に誠実でありたいからといって、成果を諦める必要はないということだ。そして、クリック率1.6倍という数値は、コピーライティングが単なる装飾ではなく、行動経済学に基づく選択アーキテクチャの一部であることを実証してもいる。

ただし、この手法を実務で導入する際には、生活者に対して繊細な配慮が必要であることも指摘している。研究チームは、推定同意表現を「顕著な販売意図」と組み合わせてはならない、と警告する。

例えば、「あなたのために確保しました」という言葉の直後に、「今すぐ購入すれば、月額◯◯円」といった露骨な売り文句を添えると、生活者は推定同意表現を「自分のための配慮」ではなく、「売るための罠」だと感じてしまい、強い反発が生じる。推定同意表現は、心理メカニズムにのっとった繊細なコミュニケーションであるがゆえに、その効果は販売意図の露出によって容易に消失するのだ。

この点も含めつつ、Cadarioらは、推定同意表現を機能させる設計の要点として、つぎの3つを挙げている。

  • 「選べます」を「準備が整っています」へ:生活者に決断を強いるのではなく、こちら側の準備が完了していることを伝えるトーンに切り替える。
  • キャンセル・変更の容易さを明示する:選択の自由が保証されていることが認識されてはじめて、推定同意言語は信頼を損なわずに機能する 。
  • 販売意図を「引き算」する:お膳立てを伝えた後は、余計な行動喚起を加えず、生活者の自律性に委ねる。

人を動かすのは、「選ばせる言葉」ではない。行動が自然に始まるよう設計された「もう始まっている言葉」である。Cadarioらの研究は、言葉が印象だけではなく、行動の初期条件そのものを構築する設計要素であることを実験データによって示している。

参考文献

  1. Cadario, R., Zimmermann, J., & Van den Bergh, B. (2026). Beyond Opt-Out: How Presumed-Consent Language Shapes Persuasion. Journal of Marketing, 90(1), 72-90. https://doi.org/10.1177/00222429251323885
    クリエイティブコモンズ CC BY 4.0のもとライセンスされている参考文献を改変しています。 ↩︎

あわせて読みたい

コメント

この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

新着記事
準備中
おすすめ
PAGE TOP
ログイン